表紙に惹かれてつい買ってしまった本だったが買ってよかった。タイトルからシンギュラリティの話かなぁと思ってたけどそうではなかった。 人工知能のこれまでの歴史を振り返り、それを踏まえた上で今ブームになっているディープラーニング、何が出来て、何が出来ないのか、今後の未来はどうなっていくのか、といったことについて研究者の立場から冷静になって提言しておられた。 内容は非常に分かりやすい。高校生でも文系でも十分に理解できる。専門的な話しではなく、あくまで一般の人を対象に、機械学習ってそういうことなのね、ディープラーニングってそういう仕組なのねということが分かるような平易な文章で述べられている。

また本書を読むと、人工知能についての正しい理解が得られる。将棋で人工知能が人間に勝ったからといって、ターミネーターのように人工知能が心を宿して人間を支配するというような突飛な論理の飛躍に繋がらないことが技術的な意味で理解できる。

一度ブームが到来すると、こぞってマスコミなどが取り上げるため、人工知能という言葉が一人歩きをしてしまいがちだ。最近だと Google の自動運転の実験とか、絵画を描いた人工知能とかが話題だろう。 絵画のニュースなんかはその絵の気持ち悪さから、種々の意見がまとめサイトとかで上がってたりしてた。でも本当にオリジナルの真っ白なキャンバスから作ったりした絵じゃなくて、あくまで既存の写真からパターンを抽出し変化させただけに過ぎない。とこういったことも本書も読むとよく理解できる。もちろん画像データから動物や目といった特徴を見つけて強調させるアルゴリズムは作るのが大変なんだろうなとは思う。

シンギュラリティが起こったり、人工知能自身が人工知能を創りだして自我を獲得するといったことは考えるのは楽しいことだ。しかし現在の技術からは相当乖離のある夢物語だと述べていた。その理由として**「人間 = 知能 + 生命」**なのだという話しは目からうろこだった。生命として備え持つ生存という本能。これを抜きにして「ロボット + 人工知能 = 人間を超える」という図式は確かに成り立たないなと思う。

平易な文章なので人工知能にちょっとでも興味があるなら読んでおいた方がいい。

最後に、本書で印象深かった文面を引用しておく。

これらはかつて人工知能と呼ばれていたが、実用化され、ひとつの分野を構成すると、人工知能と呼ばれなくなる。これは「AI効果」と呼ばれる興味深い現象だ。多くの人は、その原理がわかってしまうと、「これは知能ではない」と思うのである。

(強いAIに関して)私の考えでは、特徴量を生成していく段階で思考する必要があり、その中で自分自身の状態を再帰的に認識すること、つまり自分で考えているということを自分でわかっているという「入れ子構造」が無限に続くこと。その際、それを「意識」と呼んでもいいような状態が出現するのではないかと思う。

人工知能は人間を超えるか